三題噺②:ロバ、掃除婦・掃除夫、バケツ

小説

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三題噺2作目です。
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本編

 夜が更けた。窓から眺める月は三日月。春の澄んだ空によく映えていた。
「もう寝たか?」俺は隣にいるメリルに語り掛ける。
「寝てる。フラルも寝たら。明日も街に出て、物資を運ぶんだから」
メリルは不貞腐れたように言う。隣にいるが、顔は合わなかった。
「まあまあ、聴いてくれ 。面白れぇ話を聞いたんだよ」
「自分から”面白い話”って言う話は、往々して面白くない」
「そんなことねぇよ」
「特にフラルの話は」
「そんなことねえよ」
ちょっと音量を上がってしまった。夜分も遅い。注意する。
「今日街に出たとき、通りすがりに聞いたんだけどな」
「噂話?」
「まあまあ。でも辻褄は合いそうなんだよ。うちの国の王様、分かる?」
「分かるよ、ミダス王でしょ。なに、王様に関すること?」
「そうなんだよ。興味あるだろ。王様の特徴といえば?」
「 …革新的な政策? 」
「違う」
「…王妃にゾッコンなところ?」
「違う」
「違うの?」
「『違う』と言うと語弊があるけど。あの服装だよ」
「ああ。すごいよね。頭にターバンこれでもかってくらいに巻いて、その上にちょこんと王冠乗ってて。長髪なのに。冬は暖かそうだけど、夏は蒸れそう。このバケツ転がるおんぼろ小屋まではいかないまでも、臭くなってそう。………悪口じゃないよ」
「…うん、ま、いいよ。つまり言いたかったことは、”なぜ王様はあんなこんもり頭にしているか?”ということだ」
俺はストーリーテラーに徹するように話をつづけた。
「 ”なぜ王様はあんなこんもり頭にしているか?” 、それは王様の頭には秘密があるからだ」
「ふーん」
「興めよ。興りを味わおうとしろよ」
「はいはい。で、その秘密って何なの?」
「いいか。王様の耳は、ロバの耳なんだ」
「………王様は人間だよ」
「わかってる。その人間の王様の耳が、ロバの耳だから隠しているんだよ。神様の呪いらしい。なんでもよお、昔ミダス王は頑固者だったらしく、自分が信じているものが、どんだけ常識から外れていても、正論だとして他人の意見を取り入れようとしなかった。見かねた神様は、『そんな奴には人間の耳は必要ない』と言って呪いをかけた。文字通り、聞く耳を失ったというわけだ」
「神様ってそんなことできるの?見たことないけど」
「教会ってとこにいるらしい。きっとそこで頼むとできるんだよ。で、人間の耳がある部分は髪で隠し、ロバの耳はターバンで隠しているってわけだ」
「ふーん」
「興めよ。湧けよ、興味」
「はいはい。じゃあ、なんでバレたの?」
俺は小刻みに首を縦に振り、『来た来たその質問』と心でつぶやいた。
「どうしてもミダス王がターバンを外して他人に見せるときがある」
「散髪の時?」
「…うん、そう」持って行かれた。しゅん。「散髪の時は、ターバンを外していたから、お付きの理髪師には見えてたんだ。もちろん口止めさせていたらしいが」
「でも、喋っちゃったんだ。‥‥‥あれ、それだと、理髪師が秘密を洩らした犯人ってすぐ分かっちゃうんじゃない?そんなリスクを冒してまで他人に話すかなあ」
「いやいや、実は違うんだよ。冤罪冤罪。理髪師はちゃんと約束を守ってたんだよ。でも、散髪の時、カーテンがあけっぱなしで、ちょうどその時に窓を磨いていた掃除夫が見ちゃったらしいだよ。で、その掃除夫が喋って広めた。口止めはされてなかったしね。でもね、お咎めはなしらしい」
「えっ、なんで?」
「”ロバの耳”だからだよ」首を傾げたメリルに俺は続けた。「つまりな、『許すことで王たる度量を見せるべき』という家臣の進言を聴き入れたから、今回のことは何の罪もなし」
「ふーん」
「興めよ」
「おい、うるさいぞ」と外から怒鳴り声がぶつけられた。
声を出すのやめた。
扉が勢いよく開けられ、男が入ってきた。
「まったくよお。うるせぇんだよ」
男は歩いて、俺たちの前に立って言う。
「おとなしくしてろよ。ロバ共が」

感想戦

2作目。エビデンスは以下。

 お題は中世ヨーロッパ感があり、今まで考えたことのない言葉だった。現代の日本でいつロバを見るのだ。で、思い付いたのはロバを視点にした物語で、最後に話していたのはロバでしたという叙述トリック的な構造だった。さらにロバと言えば『王様の耳はロバの耳』という童話と思い、ロバ視点で語ると面白いかもと考えた。
『王様の耳はロバの耳』は子供の頃に聞いたきりだったので、Wikiで調べて思い出した。イソップ童話で、ギリシャ神話にも関係しているらしい。理髪師が郊外に穴を掘って秘密を叫んでいると、そこに葦が生えて、その葦が「王様の耳はロバの耳」と言い出すという荒唐無稽なものだったので、お題をクリアしつつもう少し現実的に噂話が広がったようにした。
 バケツはもうちょっとキーアイテム的に使いたかった。『興めよ』はラーメンズさんの『エアメールの嘘』から。知っている人には脳内再生されるだろう。『ロバだからこういう言葉にしているだあ』って思ってもらえると嬉しい。
 楽しんでもらえていれば、幸いで、幸せです。

アイキャッチ画像は下記より使用させていただきました。ありがとうございます。
Pixabay(www.pakutaso.com

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