三題噺③:火、市長、苺

小説

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三題噺3作目です。
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本編

 会議室は、ロの字型に長机が並べられており、一つの机にパイプ椅子が3つずつ設置されている。窓の外は曇天。雨が降るような、切れ間の青が広がるような、どっちつかずな天気だった。
 そこに3人が集った。今後の市政を議論するためである。
「でははじめます。市長、まずこの会議で草案を決めましょう」
花日市市長である尾ヶ本に、その右腕たる副市長の唐山は宣言した。議事録を任された古井はノートパソコンのキーボードでカタカタと打ち込んで、メモを取っている。
「いいですか、市長。この花日市、現在切迫した財政難の状況、まさに火の車です。次の一手でこの市が存続できるかどうかがかかっています。つまりこの会議での結果が、我々の人生そのものになるといっても過言ではないのです。ゆめゆめそのことを忘れないように」
「ああ」と尾ヶ本は返事をする。
「本当に分かっていますか?過去2回失敗して、もう後がないんですよ」
「ちょっと待て。それは君の責任が大きいだろ」尾ヶ本は指を差して、唐山に言う。
「そういうこと言いますか」歯に衣着せず唐山は続ける「いいでしょう。まず、過去の作戦を振り返りましょう」
唐山は自分のPCを操作し、過去の資料をプロジェクタで表示させ、説明する。
「まず第1回。これは、市外の人をこの花日市に呼んで、観光してもらうというコンセプトでした。そこで、当時国内外問わず有名だったマジシャンのレビット・ワッパー・ウィールドに来日してもらい、世紀のマジックショーを開催しました」
当時は週に一回程度マジックのテレビ番組があるほどのブームだった。 レビット・ワッパー・ウィールド は大掛かりな仕掛けに突拍子もないパフォーマンスで、一度見れば忘れないし、一度は生で見てみたいと思うマジシャンだ。代表作に、『レーザーで自身の上半身下半身を分断し、分断した足にしがみつきながら闊歩する』というものがある。
「有名人という広告塔で、市街の観光客を呼び寄せいようとしたんだったな」尾ヶ本は思い出す。「そのレビット某を客寄せパンダにして」
「言い方が悪いですが、そういうことです。音楽フェスやオリンピックと一緒で、大きな経済効果を見込んでいました。しかし、実際はレビットのギャランティに加え、マジックで使う道具もすべてこちらで作成していたため、その費用が予想を上回る出費で、それを黒字にしようとチケット代を設定すると全然売れずに、赤字となりました」
「チケット代はいくらだったか?」
「1万2千円です」
「公演時間は?」
「約2時間」
「それは厳しいだろ。うちの市の最低賃金は単位時間867円だぞ」
「しかしこのことは市長にも説明しましたし、承認もいただきました」
「それは、君……、『それしか策はない』というからしょうがなく……」
言葉を濁す尾ヶ本を、唐山は下唇を噛み、瞬間睨みつけ、続けた。「さらに、来た観光客も、その実、この2時間しか滞在していませんでした。旅のメインを隣の富良和市にあるテーマパーク、フェアリーランドや動物園兼サファリパークの富良和ZOOZOOZOOとしており、食事や宿泊での2次的経済効果はほとんど生まれませんでした」
「我々はまんまとアシストしてしまったわけか」
「この失敗を受けて、第2回は、人が集まる場所を作るというコンセプトで始めました。つまり、一過性のもではなく、常設するテーマパークや施設を作るというものです。そこで、花日市という名前にかけて、花のテーマパーク、フラワー・サン・パークを造るプロジェクトを立てました。それを8月7日、花の日に開園に向けて動いていました」
「アイディアはいいと思ったよ」
「…市長も前のめりだったと記憶しています」
「いいと思ったよ。我々花日市ととても親和性が高く、今か今かと期待していた。ただ、…目玉のやつが……」
「…10万本の朝顔畑ですか」
「なんでよりにもよって、”朝顔”だ」
「夏の花ですし、小学生でも知っている馴染み深い花だと思いました」
「それだけ聞けばいいかもしれないが、現実を考えろ。朝しか咲かないじゃないか営業時間内ずっとしぼんだ状態だ。そんな花畑に需要があると思ったか」
「これも市長には話しましたよね?」
「それは、君が、朝顔の良いところしか話さないからだ。メリットとデメリットを合わせて検討し、報告するのが君の仕事だろ」
唐山は口をつぐんだ。心では『あなたの仕事は私の報告を鵜呑みすることですか?』と問いただしてしまおうかと思ったが、さすがに止めることにした。
「夕顔も植えてましたけどねぇ」
「朝と夕だけじゃなくて、日中咲く花にしろよ」
このことは新聞にも取り上げられた。大失敗の開園イベントだった。
「……迅速には対応しました。しかし、最初についたイメージは払拭できず、今現在赤字営業となっています。至急、第3の矢を放たなければなりません。そこで」今日のために作った資料をスクリーンに映した。「今回は”苺”です」
「おいおい、”朝顔”と同じじゃないか。旬を過ぎれば、おしまいだ」
「そこも考えています。今回のコンセプトはずばり『未来』です。我が市が元来持つ特産物の苺と今後未来を支えるテクノロジィとの融合です。この市のことを理解してもらうとともに、新たな若者をこの地に呼ぶことを目指します。具体的に端的に言ってしまえば、苺農園です。もちろん普通に自然に育てるものをありますが、室内でも育てる予定です。温度湿度調整を行い、安定して苺を育てます。これで季節関係なく、需要に対して供給が行えます」
「なるほど。確かに年中楽しめそうだな。」
「 そしてこの管理を、AIに実施させます。AI開発には、東京から若いエンジニア・プログラマを呼んで、活動しようと思っています」
「その若者をここで生活させるつもりか?」
「そうです。過疎化の回避にも繋がります。さらに品種改良による珍しい苺の開発にも着手しようと思っています。例えば、ハート型の苺や青色の苺、巨大な苺などを案として挙げています」
「メディアに対しても話題になるな」
「はい。これは地域活性化しますよ」
自信満々の笑みの唐山とうんうんと納得している尾ヶ本。
「いいじゃないか。この方針で行こう。いつごろ完成するんだ?」
「来年には一般公開できる予定です」
「よし。現状厳しいが、頑張っていこう」

 1年後、花日市は富良和市と合併した。

感想戦

3作目。エビデンスは以下。

 市長と苺がお題に出たとき、町おこし感が出たので、そういう内容にしようと思い、あとは火をどうしようと考えた。『火の車』という慣用句を思い付き、財政難の市役所での作戦会議を切り取れば、面白くなりそうと思い書いていった。
 三人称視点で書いてみたが、会話劇なのであまり関係なかったかもしれない。ポンコツな政策、市役所の人間を想像し、どういう失敗だったかを考えるのは結構楽しかった。他人の不幸は蜜の味ということだろうか。
 オチは流れが決まった時点で、早々に思い付いた。さらっと、点で終わる感じが、読んでくれた人の想像力を掻き立てるような気がした。
 きっと設備投資に莫大なお金がかかったのだろう。おそらく、呼ぼうとした若者エンジニアはテレワークを望んで引っ越さなかったのだろう。うまくいかなかったのだろう。そしてやっと市長は責任を取ったのだろう。
 楽しく読んでいただければ、幸いで、幸せです。

アイキャッチ画像は下記より使用させていただきました。ありがとうございます。
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